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熱中症に注意!

「熱中症」とは、どんな状態なのでしょうか?

熱中症とは、体内の温度調節機能がうまく働かず、体温が異常に上昇する状態です。主に高温多湿の環境下で長時間過ごしたり、水分や塩分の摂取が不十分だったりすることで起こります。

「熱中症」と「熱射病」の違いとは?
特に、高温下での運動や労働によって、極度の脱水症状と体温調節機能が破綻することで、深部体温が40℃を超すことがあり、意識障害を起こして多臓器不全から死に至る重篤な状態、いわゆる熱射病を来すこともあります。この状態を、熱中症の中でも重篤な状態で、「熱射病」とよびます。特に、この熱射病の場合は、高度の脱水と高温の体温によって体中の筋肉が壊死してしまう「横紋筋融解症」という状態を来すことがあります。

「横紋筋融解症」は、地震などの大規模な災害による建物の倒壊の下敷きになって、下肢の筋肉が挫滅するいわゆる「挫滅症候群」でも発症することがあります。
筋肉が壊死すると、筋肉内からミオグロビンというタンパク質が大量に血液中に放出されます。このミオグロビンというタンパク質が腎臓から尿中に排出されると、コカコーラ尿(ミオグロビン尿で褐色の尿)が見られます。このミオグロビンは、腎毒性が強く、急性腎不全となり、緊急で血液透析が必要となることもあります。
夏場の高温下でのスポーツや登山、ハードなトレーニング、マラソンなど長時間に渡って筋肉を酷使するような環境では発症する危険性がとても高くなります。

「熱中症」の症状は?

①頭痛やめまい
②体温が高い
③吐き気や嘔吐
④全身倦怠感
⑤異常な汗の量(極端に多いか、逆に少ない場合もあります)
⑥筋肉の疲労感、脱力、筋肉の痙攣など
⑦意識障害

総務省のデータによると、2024年7月8日~14日までに熱中症によって救急搬送された人は6194人に上り、2024年4月29日~7月14日現在までの救急搬送された人の数は、全国的にも昨年を上回っています。

https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/post3.html

また人口動態統計によると、熱中症による死者は2018年以降、1000人を超えることが多くなっています。

厚生労働省データより当院にて作成
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/necchusho22/index.html

「夏バテ」とは
夏バテとは、これからの暑い季節に、何かしらの体調がすぐれなくなる状態のことを指し、病名ではありません。一般的には、暑さや湿気、身体の水分や電解質が失われることにより、体力や免疫力が低下しやすくなり、食欲不振・倦怠感・無気力・不眠・めまいなどの様々な症状が出現する状態のことを指します。

「夏バテ」の症状は?
①全身のだるさ、疲労感:なんとなく体がだるい、疲れが取れないなど、普段よりも疲れやすく感じることが多くなります。
②食欲不振:食欲が落ちて、食事が進まない、消化管の機能が落ちることで、胃腸の調子が悪くなることがあります。
③頭痛:頭が重い感じや頭痛が起こることがあります。
④めまいや立ちくらみ:突然のめまいや立ちくらみが起こることがあります。めまいや立ちくらみは、熱中症の症状ともいえます。
⑤睡眠障害:寝付きが悪くなったり、途中で目が覚めたり、早朝に目が覚めたりすることで、眠りが浅くなることがあります。睡眠が十分にとれていないことで、疲労感が蓄積し、精神的なストレスも感じやすくなります。
⑥集中力の低下:慢性的な疲労感や寝不足から、仕事や学業などで集中力がなくなることがあります。

「熱中症」「夏バテ」は、かくれ貧血やかくれ栄養失調がリスクになる!?

<かくれ貧血とは>
かくれ貧血とは、健康診断などの血液検査の結果では貧血の指摘を受けていないにもかかわらず、体内の鉄分が不足している鉄欠乏が様々な体調不良や症状の原因になっている状態のことをいいます。血液検査で異常がないために、気づかれないのでかくれ貧血といわれています。

1)なぜ暑い季節に鉄分が欠乏するのか
①発汗による鉄分の喪失
発汗は体温調節のために重要ですが、汗の中には少量の鉄分が含まれています。特に暑い環境下での労働や激しい運動を行った場合には、大量の汗が分泌され、その中に含まれる微量の鉄分が失われていきます。長時間または頻繁に発汗を伴う活動をすると、体内の鉄分が減少し、鉄欠乏症のリスクが高くなります。
②食欲不振と胃腸障害による鉄の摂取量の減少
夏の暑さによる体調不良は、食欲不振や消化不良を引き起こすことがあります。食欲不振により、鉄分や他の重要な栄養素の摂取量が減少する可能性があります。
③腸管からの鉄の吸収率の低下
高温の環境下では、腸管の血流が低下し、鉄分の吸収率が一時的に低下することがあります。鉄分の吸収率が低下すると、体内での鉄分の利用が低下し、鉄欠乏症のリスクが増加します。
④炎症と鉄分の代謝
高温下での運動や暑い環境にさらされることで、体温の上昇とともに体内での炎症反応が増加します。炎症反応が活発になると、体内の鉄の代謝が変化し、鉄分が組織に移行しやすくなり、鉄欠乏症のリスクが高まります

<かくれ栄養失調とは>
飽食の時代といわれる現代社会で、偏った食生活や欠食などから、摂取する栄養素のバランスが乱れることによって、様々な栄養素が欠乏(栄養失調)、心と体の不調をきたしている状態です。ただ、普通の血液検査では基準範囲内で入っていることから、気づかれにくいため、「かくれ栄養失調」と私は言っています。

2)「熱中症」「夏バテ」と鉄不足の関係
1.鉄とヘモグロビンとの関係
 まず、鉄は体内に酸素を運ぶために重要なヘモグロビンの主要な構成要素です。このヘモグロビンは赤血球内に存在し、酸素の運搬に重要な役割を果たしています。酸素は、体の中全ての細胞が生きていくために必要です。特に筋肉や脳などの組織でのエネルギー産生に必要です。鉄欠乏症の状態では、ヘモグロビンの合成が低下し、全身への酸素の運搬能力が低下することにより、細胞や組織への酸素供給が制限されて、エネルギー代謝が低下します。

2.ミトコンドリアにおける鉄の役割
 ミトコンドリアは細胞内でのエネルギー生産の主要な場であり、車でいえばエンジンの働きをする場所です。このミトコンドリアでは、ATP(アデノシン三リン酸)という物質を生成します。ATPは細胞のエネルギー代謝において中心的な役割を果たし、その生成と供給は体内の機能の維持に必要不可欠です。ATP分子はてエネルギーを放出し、ADP(アデノシン二リン酸)やAMP(アデノシン一リン酸)に変換されます。この過程で得られるエネルギーが細胞の機能や代謝反応に重要な働きをしているのです。
この代謝経路には、鉄や他のミネラル、ビタミンなど、様々な栄養素が必要です。特に鉄はヘモグロビンとミオグロビンを通じて酸素を細胞に運びます。酸素が十分足りていないとATPの完全な生成が阻害されるため、鉄の十分な供給がエネルギー代謝に欠かせません。この過程で鉄が多くの酵素反応の補酵素として必要なのです。
鉄欠乏症では、ミトコンドリア内のこれらの酵素活性が低下し、エネルギー生産が不十分になることがあります。これにより、体の各組織や器官でのエネルギー供給が制限され、全身的な疲労感や身体活動能力の低下、体力の低下が生じる可能性があります。

3,鉄と体温調節
 鉄分は、体温調節にも関与しており、特にヘモグロビンを通じて体内の熱を分散する役割があります。暑さや寒さに応じて体温を調整し、代謝の最適化を図ります。
鉄欠乏では体温調節機能が低下し、特に暑い季節や運動時には体温のコントロールが困難になることがあります。体温調節機能が低下することで、疲労感や体力の低下につながるだけでなく、高体温を来す熱中症を引き起こす可能性があります。

3)内科医が実践する「鉄分」他「栄養素」の摂取の仕方
<熱中症予防に必要な生活習慣>
①朝の欠食を避ける。
朝食は、1日の活動の大切なエネルギー源です。また、朝食に含まれる水分や塩分も熱中症予防にとって重要です。
厚生労働省も外国人労働者向けに熱中症予防のための啓発事業として朝食を摂取するように勧めています。
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000628975.pdf
②タンパク質を十分に摂取する。
熱中症の予防には、日頃の栄養管理が非常に大切です。特に、タンパク質をしっかり摂って、丈夫な体づくりを心がけましょう。
タンパク質をしっかりと摂るためには、肉や魚など、鉄分の多い食品を、朝・昼・夕で各2品ずつ摂取するように心がけます。
③鉄分を多く摂取する。
鉄分の多いタンパク質で代表的なものは、レバーです。レバーには非常に鉄分が豊富に含まれています。調理法を工夫して、夏でも食べやすい料理として取り入れましょう。肉は赤身の肉を選ぶようにしましょう。牛肉や豚肉の赤身には鉄分が多く含まれています。グリルや焼き肉など、軽い調理法で食べるのがお勧めです。また、海藻類や貝類や魚介類には良質な鉄分が含まれています。寿司や刺身など生で食べることで栄養価を保持できます。
④ビタミンB1
ビタミンB1(チアミン)は、人の適切な細胞機能を維持するために必要なビタミンで、炭水化物、脂肪、タンパク質の代謝に必要な補酵素として、体内で特別な役割を果たしています。ブドウ糖の代謝にも使われるため、栄養失調の人は、ブドウ糖を大量に摂取すると、急性チアミン欠乏症になることもあります。 また、細胞の中のエンジンの働きをするミトコンドリアでのエネルギー生産やタンパク質合成にも関与していますしので、人の体内でエネルギーの産生のために非常に大切なビタミンです。

#)The importance of thiamine (vitamin B1) in humans:Biosci Rep. 2023 Oct 31;43
④ビタミンCを摂取する
ビタミンCの補給は、高温下での酸化ストレスを減少させることにより、熱に対する有害な影響を予防します。また、免疫力を高め細胞の機能を高めます。
Vitamin C supplementation and salivary immune function following exercise-heat stress:Int J Sports Physiol Perform
. 2008 Dec;3(4):516-30
⑤水分と塩分の摂取
熱中症予防のためには十分な水分の補給が重要です。特にナトリウムは汗と共に体外に排出されてしまうため、ほどよい塩分の摂取を心がけましょう。

今回のコラムに関連して、プレジデントオンラインにも記事があります。
そちらもご覧になってくださいね。

https://president.jp/list/category/life